大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)308号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事実)

川崎市宮前町二十五番宅地二百七十二坪六合三勺はもと訴外島田久吉の所有に属し、同人がこれを財産税納入のために国に物納したものであるところ、被控訴人は昭和二十三年十月二十八日国から右土地の払下を受け、同年十一月一日その所有権取得登記を経由したので、右土地のうち本件土地を不法に占有している控訴人に対し、その明渡を求める本訴を提起した。

控訴人は、抗弁として、(一)国は被控訴人が払下の適格がないのに錯誤により被控訴人を払下の適格者とみとめて右払下をしたのであるから、右払下処分は、当然無効であり、その無効は絶対的なるが故に当事者以外の何人も、又何人に対しても主張しうる。(二)本件土地については控訴人が既に昭和二十二年五月十九日地主たる島田久吉より賃借権の設定を受け、引き続き適法に占有使用してきたのであるから、財産税のための物納後、控訴人こそは縁故者として国より優先的に該土地の払下を受けるべき地位に在るので、この地位に伴う自己の権利を保全する趣旨において、国が被控訴人に対し主張しうべき権利を代位して行使し、錯誤に基く払下契約の無効を主張しうべき筋合である、と述べた。

原審並びに控訴審とも被控訴人勝訴。

(判斷)

判決は、次の理由によつて控訴人の右抗弁を排斥した。

(一)凡そ財産税納入の為めに国に物納された物件(いわゆる物納財産)は、国の普通財産であつて、国が行政上の目的に供する公物たる国有財産とは異なり私法的関係において所有する国の私有財産たる性質を存するのであるから、これが讓渡処分についても国有財産法に特則なき限り原則として民法の適用を受くべきものである。この種国有財産の売払は、名は払下処分というもその本質は国が行政権の主体として権力服従関係に基いて為す行政行為ではなくて、当事者対等を基本とする民法上の売買契約にすぎない。それ故、払下が要素の錯誤に基くときは、民法第九十五条により無効となるべき筋合である。しかしながら、同条錯誤に関する規定は、本來瑕疵ある意思表示をした当事者を保護しようとする趣旨に出たものであるから、表意者自らその意思表示に何等の瑕疵あることを認めず、錯誤を理由として意思表示の無効を主張する意思がないのにかかわらず、第三者において表意者の意思に反しても強いて錯誤による意思表示の無効を主張することは、同条立法の趣旨に反し、原則として許されないものと解する。このことは、特に売買のような各当事者互に対価的の意味を有する債務を負担することを約する双務契約の場合においてしかりである。但し第三者が自己の権利を保全する為め債務者に属する権利を行使して錯誤に基く意思表示の無効を主張しうべきことは疑がないが、これは畢竟表意者の為すべきことを第三者が代位して為すにすぎず、第三者独自の立場において為すのでないことは勿論である。

(二)仮に控訴人がその主張の如く本件土地につき賃借権を有していたところで、この故を以て当然に国に対し自己に払下あるべきことを請求する権利を有するのでなく、国は払下の義務を負うのではない。その払下を為すや否やは国が自由なる裁量によつて決するのであるから、控訴が国に対する権利を保全する為め、債務者たる国に代位し国に属する権利を行使するというのは事理に反する。

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